俺は後ろから差し出されるままに、ブラウスを羽織る。
着てみると、ただYシャツと同じで名前だけが違うだけと思っていたブラウスが、やはり微妙に違うものなのだと実感する。
肩幅から腰までのバランス、肘の部分や袖の作り。
ただ同じ直径で筒みたいな構造の簡単なシャツとは違う事を、身体への微妙なフィット感で感じる。
それに何より、やっぱり、腰の位置が高い。今の今まで大きな男物を羽織っていたせいもあるけど、なんだか丈が短い。

いくみ「……これじゃ、これだけじゃぱんつが見えちゃうね」

苦笑いしながら、思った事を素直に言葉にしてみる。

真菜「そう……かな? 真菜はあんまり違いが分からないけど」

いくみ「ああ、ずっと着ていたらそうなのかなぁ……」

真菜「それより、はい! 次はスカートだよ!」

いくみ「えええええ?」

分かってはいたが、いざ着るとなると、反射的にそんな声が出てしまう。
真菜「当然でしょ? 女の子だもん」

いくみ「お兄ちゃん、お兄ちゃんなんだけどなあ」

真菜「今はお姉ちゃんだよー」

いくみ「うう……」

短い筒状の、プリーツのある生地……に、ひょいと足を通す。

真菜「はやくー」

いくみ「ま、待ってよ。俺、今から大事な何かを失うんだから……」

真菜「え? えっと、何を?」

いくみ「はは……まあ、プライドとか……そんなん」

俺は諦めて大きく息を吸うと、背を伸ばして、スカートのウエストの部分を、ぐっ、と腰の位置まで持ち上げた。

真菜「スカート……うん、このへん」

ピッ、と真菜ちゃんがスカートのホックを止める。

いくみ「え……こ、こんな……なのか?」

思ったよりも高い位置で留められたスカートは、目を瞑ってしまうと、まるで下半身には何も着てないと感じさせるくらい、頼りないモノだった。

いくみ「す、すーすーする……どころじゃないよ、これ……ぱんつ見えてない?」

真菜「大丈夫。それと上着とリボンと……うんっ」

いくみ「う……わ……」

なんだろう、驚きで喉が詰まる。

真菜「ね? 見てみると普通でしょ?」

いくみ「そ、そうだけど……」

真菜「スカートは、間違って男の人のウエストで締めようとしたら、すごい胴長になっちゃうよ? サイズ的にも違和感がある筈だし」

いくみ「いや……なんて言うか」

確かに鏡を見ると下着までは見えないのだが、それにしてもすーすーしすぎだ。

いくみ「これは……歩いたら見えちゃわない?」

真菜「んー、サッカーしたら見えちゃう」

いくみ「そんなにあっさり……見えちゃまずいでしょ?」

真菜「真菜だって、制服の時は見えないようにするよ? 後はその、風が吹いたら自然と手で押さえたり」

いくみ「そんなこと、できません」

真菜「身に着けてる服の動きって、身体が覚えてるから」

いくみ「わかりません」

真菜「……そ、そうかな……どうしよう。多分女の子だと、自然にできる事なんだけど……」

いくみ「わかりません……」

俺は、改めて鏡の中の自分を覗き込む。
そういえば、あえて真菜ちゃんと比べてみると、今の俺のポーズには違和感がある。
見よう見まね、というか記憶の中の真菜ちゃんの真似をして、軽く腰を引き、スカートを足の付け根辺りで押さえてみる。

いくみ「こう……」

真菜「あ、そうそう! そうやってスカートを押さえるの!」

いくみ「……そう?」

真菜「うん! ね、笑ってみて? ほら、鏡に向かって!」

いくみ「笑うって……ええと、こう……?」

真菜「そう! あはっ、お兄ちゃん可愛い〜!」

いくみ「あはは……はは……」

俺は、今……確実に……
大切な何かを……失いました……